13.7.2018
語れたら男前!? 高級時計の「ムーンフェイズ」 ~ムーンフェイズとはどんな機構?~
Komehyo
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ブログ担当者:伊達
皆さん、腕時計の「ムーンフェイズ」をご存知でしょうか。下の画像の「夜空を描いた絵」の部分が、ムーンフェイズ部分です。
時計のデザインは、「円」「直線」「四角」などの幾何学模様で構成されています。そのため、文字盤の中に「夜空を描いた絵=ムーンフェイズ」が登場すると、良いアクセントとなり、時計の表情がとても華やかになります。例えるなら、“小説に添えられる粋な挿絵”のように、人の目を惹くのです。
では、このムーンフェイズとは何なのでしょうか?もしかしたら、このトケイ通信をご覧の皆さんであれば、
「月の満ち欠け(満月や新月など)が分かる機能」
と、簡単に答えることができるかもしれません。
しかし、
「ムーンフェイズは、どういう理屈で動いているの?」
「ムーンフェイズは凄い機能なの?」
という質問となると、言葉に詰まるかもしれません。
このムーンフェイズについてのちょっとした疑問ですが、マニアック過ぎて答えることができないことが普通です。しかし多くの男性の方は、このようなちょっとした「なぜ?」に対して、「“男前に”答えることができたらいいな」という気持ちもあるはずです。
そこで今回は、皆さんがこの質問に“男前に”答えることができるように、ムーンフェイズについて書かせていただきます。是非、ご覧ください。
■「ムーンフェイズ」とは?
まずは、「ムーンフェイズって何?」という点を明確にしておきましょう。
ムーンフェイズの役割としては、前述のように、「月の満ち欠け(満月や新月など)が分かる」ことです。
もう少し具体的に説明しましょう。そもそも「ムーンフェイズ」という言葉ですが、これは「月相(げっそう)」を意味します。簡単に言うと、「私たちが見える“月の形”」のことです。月が見えなければ「新月」、月が全部見えれば「満月」、その間の形である「上弦」と「下弦」などのことです。一般的には、その月の形を28段階(28相)に分け、「1~28」の数字を振ってカウントします。
また、月相と似た用語が「月齢(ムーンエイジ)」です。これは「新月から次の新月までを、“何日目”という単位で数えること」です。つまり、「どんな月の形?」という話ではなく、「新月から何日目?」という話です。おおまかに言うと、「月相≒月齢」となります。ただ実際は、月の軌道が楕円であるために、同じ満月の日でも、月齢は「13.8日」の場合や「15.8日」の場合などと変動があります。月相では「満月=14」ですので、厳密には、月相(月の形)と月齢(月の齢)は合いません。
通常、一般の方は「月相」と「月齢」の使い分けまで意識しませんので、世間的には月相のことも「月齢」と言っている場合が多いように感じます。ただし、このムーンフェイズ機能を厳密に表現するなら、目的は「月の形を知ること」ですので、「月齢表示」ではなく「月相表示」と言うことができます。
※まれに、周りに“カウント数字”のついたムーンフェイズを見ます。このタイプに関しては、「新月からの日数カウント」という解釈ができるので、「月齢表示」と言っても良いでしょう。
■「ムーンフェイズ」の正体とは?
ここからは、「ムーンフェイズの正体」を暴いていきましょう。
まず、実際の月が移り変わる事象を把握することから始めます。基本的に、月が地球を一周回る(公転)することで、月の形は変化します。このときの実際の月の公転周期は、平均して約27,32日です。しかし、その間にも、地球と太陽の位置関係は変わります。月が地球を一周するころには、地球と太陽の位置は2日分ほど移動するのです。そのため、実際の新月から次の新月までの一周(朔望月/さくぼうげつ)の平均は約29,53日になります。
つまり、月の形が一巡する周期は、約29.53日となっており、そもそも“少数点以下のある数字”です。そして、この周期自体もあくまで平均値であり、より厳密に言うと29.27日から29.83日の幅があります。このような動きをする月の形を正確に表現することは、あまりにも困難な話です。しかし、「この月相のサイクルをなんとか時計で表現できないか」と考えて、機械式時計で表現をすることを成功させた人物がいます。
その人物は、天才時計師として有名なブレゲです。ムーンフェイズは、彼が18世紀に発明したと言われているのです。ブレゲの解決方法は、朔望月を「29.5日」サイクルに設定することでした。
これは、実際の朔望月「29.53…日」を「29.5日」として、つまり小数点第二位以下を切って、“おおよその周期”で表現したということです。
↑現在のブレゲもムーンフェイズを搭載する
もちろん、さらにざっくりと、整数の「29日」まで端数を丸める方法もあったでしょう。しかしブレゲは、より精度の高い「29.5日」を選択しました。そのため、“おおよその周期”とはいえ、ある程度の精度は確保しています。
しかし、機械式時計が歯車で動くという点で、解決しなければならない問題があります。例えば、もしムーンフェイズが「29日間」であれば、“29歯の歯車”を利用して、“29刻みの動き”を生み出せば良いでしょう。しかし、実現したいのは「29.5日間」です。この場合、困ったことになります。なぜなら、当たり前ですが、歯車の歯は“整数”であり、“29.5歯の歯車”という手段がないからです。つまり、歯車は「一歯の動きが、ひとつの動作出力」という原則のもとでは、「29.5日」の「0.5日」をいかに表現するかが問題なのです。
そこで考え出されたのが、「29.5」を倍にした“59歯の歯車”でムーンフェイズディスクを動かす手法です。
↑ムーンフェイズのディスクは
“月の絵”が2つある
上の画像を見ていただくと分かりやすいと思います。この画像のモデルは、文字盤が透けている特殊な仕様で、本来隠れるはずの部分も見ることができます。この画像から、「“1周で”朔望月の2周分を表示するディスク」を採用していることが分かります。“月の絵”が2つあることからも、それがよく分かるのではないでしょうか。このディスクを、1日に1歯ずつ進めて回転させると、半周で29.5日になるのです。つまり、ディスク半周で、月相の1サイクルを表示している仕組みなのです。
あとは、文字盤上に小窓を作り、“見せる部分”で月の形を表現します。ディスク上の“満月の絵”を隠す割合で、「三日月」「上弦」「十三夜」などが表現できるのです。動きのイメージとしては、「新月」からスタートして、90度回転したら「満月」、さらに90度回転したところで再び「新月」に戻るという機構です。
これで冒頭の疑問のひとつ、「ムーンフェイズは、どういう理屈で動いているの?」に回答ができますね。
つまり、「月のサイクルを29.5日に設定して、29.5日で半周するディスク(歯車)を動かしている」という回答です。
■高精度ムーンフェイズ
では、冒頭のもうひとつの疑問、「ムーンフェイズは凄い機能なの?」も解決しておきましょう。
実は、ムーンフェイズも通常のタイプ以外に、「高精度ムーンフェイズ」と言われるタイプが存在します。これに関しては、明らかに「凄い機能です」と言うことができます。
補足をすると、ムーンフェイズ機構自体は、かならずしも「凄い」と言い切ることができません。なぜなら、入門価格帯のモデルにも搭載されることがあるからです。しかし、機械式時計に搭載される「高精度ムーンフェイズ」に関しては、一部の高級モデルにしか採用されておらず、胸を張って「凄い」と言うことができるのです。
↑ムーンフェイズは入門価格帯の
モデルにも搭載される
※画像はエポス
ここでは「高精度ムーンフェイズ」の話となりますので、“ムーンフェイズの誤差”の話をしましょう。
先ほど説明した従来のムーンフェイズは、理論上、“約3年で1日程度の誤差”が生じてしまいます。しかし、高精度ムーンフェイズはさらに上をいく精度を持っています。例えば、ランゲ&ゾーネのムーンフェイズは、“約122.6年で1日程度の誤差”という桁外れの精度を誇っています。
↑約122.6年に1日の誤差の
ランゲ1ムーンフェイズ
では、それらの構造を比較してみましょう。
・従来のムーンフェイズ
朔望月の周期:「29.5日」
ムーンフェイズディスクの歯数:「59歯」
誤差理論値:「約3年で1日」
・高精度ムーンフェイズ
朔望月の周期:「29.5日と12時間45分」
ムーンフェイズディスクの歯数:「135歯」
誤差理論値:「約122.6年で1日」
やはり、高精度ムーンフェイズは、ムーンフェイズディスクの歯数が多いのです。より誤差を減らすべく、よりレベルの高い部品を採用していることが分かります。
ちなみに、高精度ムーンフェイズは、「アストロノミカル・ムーンフェイズ」と呼ばれることもあります。ディスクの歯の数を増やすことによって、アストロノミカル(天文学的数字)な高精度を実現するからです。上では「122.6年に1日」の誤差のものを紹介しましたが、他には「1058年に1日」という誤差の“超高精度”なムーンフェイズも存在します!
↑1058年に1日の誤差のムーンフェイズ
※画像はランゲ&ゾーネ
「1815ムーンフェイズ」
つまり、「ムーンフェイズって凄いの?」という疑問に対しては、
「一般的には『凄い機能』とは言えないけど、中には高精度で凄いものが存在する」
という回答ができます。
■最後に
今回は、少し難しい話しになったかもしれません。しかし、ムーンフェイズ機構は、最近の時計業界のトレンドでもあります。そのため、注目度の高い機能です。
だからこそ、周りに「ムーンフェイズって何?」と質問をする方が現れるかもしれません。そのときに、ムーンフェイズを語れるような“男前な”対応ができれば、かっこいいでしょう。
是非、そのような状況があれば、ムーンフェイズを語ってみてください!
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