高級腕時計の時計通信

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18.5.2018

何が違う? グランドセイコーの“手巻モデル” ~「手巻式=面倒」というイメージを覆すモデル~

Komehyo

ブログ担当者:志津

 

「最近のグランドセイコーにも“手巻式”はあるけど、“自動巻式”の方が便利で良いよね?」

 

これは、グランドセイコー(以下、GS)の接客時に、時々お客様からいただく質問です。

 

 

確かにGSの中で、“手巻モデル(以下、手巻GS)”はあまりメジャーとは言えない存在です。それは多くの方が、「手巻式は毎日リューズを巻き上げる必要がある」という認識をもっている点も要因になっているのかと思います。つまり、手巻式は面倒に思われがちなのです。この「手巻式=面倒」というイメージにより、“自動巻モデル(以下、自動巻GS)”を選ぶ方が多いのでしょう。

 

しかしGSの場合、安直に「手巻より自動巻の方が良い」としてしまうことは、もったいないことです。

 

なぜなら、手巻GSはかなり特別な魅力をもっているからです。その魅力を知らずに、安易に自動巻モデルを選んでしまうのは、「素敵な時計に出会える可能性」を捨てる、機会ロスになっているかもしれません。

 

↑手巻GSを知らないことは機会ロス!?

※画像はSBGW231

 

具体的に言うと、手巻GSはGSのラインナップにおいて、“特別なデザインが与えられる”という特権を持っています。私は今回の記事で、「手巻GSに与えられる特別デザイン」について紹介し、手巻GSの素晴らしさを広めたいのです。是非、最後までご一読ください。

 

※今回の記事でいう「手巻GS」は、2001年以降に登場する現代のモデルを指しています。つまり、昔の“ヴィンテージGS”やその復刻である“ヒストリカルコレクション”ではなく、“最近のレギュラーモデルの手巻GS”のことです。

 

 

 

 

 

 

■そもそも“手巻GS”以外にどんな種類があるの?

 

今回はGSの手巻モデルについてですが、まずは前提として「手巻式以外には何があるの?」という点を押さえておきましょう。実は、GSは製品のラインナップをムーブメントで3つに分類しています。

 

その3つとは、

 

1.クォーツ

2.メカニカル

3.スプリングドライブ

 

です。

 

クォーツは、電池式とも言い換えることができます。メカニカルは、いわゆる「機械式時計」のことで、昔ながらのゼンマイ駆動式のことです。そしてスプリングドライブは、クォーツと機械式時計のハイブリッド式です(※1)。「あれ、手巻式がない」と感じられた方もいらっしゃると思いますが、実はこの先に小分類があります。2つめの「メカニカル」をさらに分類すると、ちゃんと手巻式が登場します。

 

つまり、

 

2.メカニカル

 ①自動巻式

 ②手巻式

 

という小分類内に、手巻式はいるのです。

 

↑ローターがないものが“手巻式”

 

実はこの先もさらに細かく分類することができますが、今回はまずここまでの紹介とさせていただきます。因みに、1960年から始まるGSの歴史を見ると、一時GSが生産されなかった時期があり、再び1988年にGSは再展開されるようになります。その1988年以降のGS復活のストーリーを辿ると、「クォーツ→メカニカル→スプリングドライブ」の順でラインナップは増えるのです。GSに種類があるのは、純粋にラインナップを徐々に広げてきた結果なのです。

 

 

 

 

 

 

■“違い”が魅力!手巻専用のデザイン

 

ではここからが本題です。冒頭でも触れましたが、今回、私は「手巻GSに与えられる特別デザイン」について紹介したいと思っています。このことを言い換えると、手巻GSは「他のGSとはデザインが違う」ことが特徴なのです。この手巻専用のデザインが、大きな魅力なのです。

 

その手巻専用のデザインを私なりに表現すると、「丸みのあるフォルムで、クラシカルなテイスト」です。

 

↑手巻GS/SBGW005

 

以下で具体的に見ていきましょう。

 

 

 

①ガラス(風防)

 

まず、ひとつめの違いとして、ガラスを挙げます。手巻GSは、“ボックス型サファイアガラス”を採用しています。

 

↑ボックス型サファイアガラス

↑他のGSのガラス形状

 

他のGSでは、フラット面のサファイアガラスやデュアルカーブのサファイアガラス(緩やかな曲線を描く)が採用されます。つまり、手巻GSのガラスは、他のGSとは異なるガラス形状なのです。ボックス型サファイアガラスは、プラスティック風防の形状に似ており、ガラスの側端からすぐに突き出すような形をしています。より“飛び出している感”の強いガラスに感じます。時計を傾けたり、横から見るとその違いがよくわかります。

 

一般的に、ヴィンテージウォッチにはプラスティック風防を採用するものが多い状況があります。この風防は側端からすぐに突き出す形をしており、まさにボックス型サファイアガラスと同じです。つまり、ヴィンテージウォッチの風防と同じ形状のガラスをもつ手巻GSは、“クラシカルなテイスト”を持っているのです。

 

 

 

②文字盤と針

 

次に、文字盤と針の特徴です。手巻GSは、文字盤も針も中心部から側端方向へ曲線を描いています。前述のガラスの曲線に合わせるようなデザインと言えます。このカーブを持つ文字盤は、「どの角度からも見やすい」という実用面はもちろんですが、ヴィンテージウォッチに見られるカーブした文字盤“ボンベ文字盤”を彷彿させます。文字盤も針も、“クラシカルなデザイン”です。

 

↑文字盤と針は側端に向かいカーブする

※文字盤はアイボリーカラー

 

さらに、文字盤カラーも魅力です。レギュラーモデルのステンレスモデルは、文字盤にアイボリーカラーを採用します。若干焼けたような雰囲気を醸すアイボリーカラーは、ヴィンテージウォッチかのような“枯れ感”を表現します。とてもクラシカルなデザインとマッチする色だと思います。

 

面白い点は、手巻以外のモデルでは、シルバー、ホワイト、ブラック、ブルーなどのカラーバリエーションがあります。しかし、手巻GSのステンレスモデルはこのアイボリーのみとなっています。まさにクラシカルな方向を意図して作られているのを感じます。

 

 

 

③ケースとブレスレット

 

また、手巻GSのケースデザインを見ると、こちらも丸みあるフォルムなのです。これは、他のGSと最も違う点かもしれません。他のGSのケースデザインは、どちらかというと直線的で、多面的なザラツ研磨がされています。それに対して、手巻GSは全体として丸みを帯びた形状になっています。

 

↑デザインの違い

 

加えて金属ブレスレットモデルでは、まさに手巻専用と言ってもいい“目の細かいデザイン”のブレスレットが採用されています。雰囲気は、まさにクラシカル。このクラシカルな雰囲気あるブレスレットは、他のGSで見ることはありません。

 

↑手巻GSは目の細かいブレスレット

 

 

 

このように、手巻GSは「丸みのあるフォルムで、クラシカルなテイスト」をもっています。これは他のGSにはない特徴です。もちろん、私一人だけが「手巻GSはクラシカル」と思っている訳ではありません。実際にメーカーもそのように意図していいます。例えば、GSの公式ホームページの手巻GSの紹介を見ても、「クラシカル」とはっきり記載されています。これは、完全に“狙ったクラシカル”なのです。

 

 

 

 

 

 

■なぜ手巻GSはクラシカル?

 

最後に、「なぜ手巻GSはクラシカルに作られるのか」という点についての、私の見解を紹介します。

 

先に少し紹介しましたが、GSは1988年にブランドを再展開します。最初はクォーツで、1998年には自動巻GSが発表されました。そして、自動巻GSから遅れること3年、手巻GSが登場します。現在の高級時計の主な機構は、自動巻式とクォーツ式です。その2つを先に登場させた状況であるために、手巻GSは「後から追加された」という立場です。そのため手巻GSは、何かの“色”を出さないと、存在意義が薄くなります。

 

そこで、手巻GSには、“クラシカルなモデル”というポジションが与えられたのではないでしょうか。そもそも手巻式は、自動巻式より昔からある機構です。「手巻=古い」という私たちのステレオタイプを活かし、手巻GSの立ち位置を確立したのだと思います。

 

また、GSの手巻モデルが登場した2000年代初頭は、現在よりGSのユーザー年齢層が高かったことも要因にあると思います。復活前のかつてのGSには手巻式が存在していましたので、手巻GSを登場させることは、かつてのGSを知る層に郷愁を掻き立てるはずです。

 

↑かつてのGSは手巻式があった

※画像は1960年代のセカンドモデル

 

ここまでは、あくまで私の個人的な見解ですが、手巻GSがクラシカルなデザインで魅力的であることは、間違いのない事実です。

 

本来、クラシカルなデザインにするためには、それなりのコストがかかるはずです。なぜならば、文字盤、針、ガラス、ケースにカーブを与え、より部品点数の多いブレスレットを採用しているからです。しかし、手巻GSは、手の届きやすい価格設定になっています。きっと他のブランドを見渡しても、この価格で、この品質のクラシック要素を盛り込む時計は、なかなかないのではないでしょうか。

 

そして手巻GSは、外観はクラシカルながら、内部は現代スペックを備えます。現行モデル(9S64系)では約3日間、一世代前(9S54系)でも約2日間のパワーリザーブを誇ります。昔の手巻時計の多くは、パワーリザーブが“36時間ほど”というものが多いはずです。そのため、「毎日リューズ操作でゼンマイを巻きましょう」となるのですが、約3日間のパワーリザーブをもつ手巻GSは違います。冒頭で述べた「手巻=面倒」という点が、克服されているのです!

 

つまり手巻GSは、

 

「昔懐かしいデザインを持ちながら、今の私たちに使いやすい時計」

 

なのです。

 

昔のGSに似ているようで少し違うのです。まさに今、実用的に使うことができるのです。「手巻=面倒」のイメージから離れて、現代の手巻GSの魅力を、皆さんも味わってみてはいかがでしょうか!

 

 

 

※1・・・スプリングドライブについては、過去の投稿をご参照ください。

↓↓↓

セイコーの持つ世界に勝る技術「スプリングドライブ」とは? 〜グランドセイコーの世界進出〜

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