高級腕時計の時計通信

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13.12.2025

【GrandSeiko】9Sムーブメントの魅力

Komehyo

※掲載のアイテムは、KOMEHYO独自で買取り・仕入れ・販売しているアイテムの一例です。

 

グランドセイコーといえば、9Fクォーツや9Rスプリングドライブといった、独自で高い人気を誇るムーブメントがよく知られていますが、「9Sメカニカル」を忘れていませんか?

今回は、9Fや9Rに比べて注目されにくい「9Sメカニカルムーブメント」について、詳しく丁寧に解説します。

さらに、最後には私の熱い思いもお伝えしますので、ぜひ最後までお付き合いください。


【目次】

・時代とともに進化する9Sムーブメント

・エクスプローラーⅡの特徴は?モデル別比較

【9S5系ムーブメント】

【9S6系ムーブメント】

【9SA系】

①デュアルインパルス脱進機

②ツインバレルの導入

③スイスの最先端技術の導入

④デイトジャスト機能の追加

⑤まとめ

編集長の思い

デュアルインパルス脱進機の面白さ

・最後に


時代とともに進化する9Sムーブメント

9Sは時代ごとに大きな進化をしているので、大きく3つの世代に分けてお話しします。

【9S5系ムーブメント】

■ 時代背景

1990年代後半、クォーツ時計が主流となっていた時代に、少しずつ機械式時計の人気が再び高まってきました。そんな中、1998年に機械式時計で世界に挑戦しようと登場したのが「9S5系ムーブメント」です。

この「9S」について、SEIKO関係者は「特定のモデルをベンチマークしていない」と述べていますが、実際にはROLEXの31系ムーブメントを参考にしていたと考えられています。

その理由は、サイズ感が31系とほぼ同じだからです。

エタ社のムーブメントは薄型に設計されていますが、ROLEXのムーブメントは実用性を重視して、ある程度の大きさが必要だと判断し、そのサイズで作られています。
そのため、設計思想にも共通点が多いといえるでしょう。

※掲載のアイテムは、KOMEHYO独自で買取り・仕入れ・販売しているアイテムの一例です。

 

・当時の検査基準について

検定に関しては、スイスの基準を強く意識した取り組みが行われています。

当時、スイスは高精度な時計を作る国として広く認知されていました。
そのため、ROLEXなども「COSC(スイス公式クロノメーター検査)」に合格する精度で時計を製造していました。

一方、グランドセイコーはこのクロノメーター検査よりさらに厳しい「GS規格」を独自に設け、9Sムーブメントはこの基準に基づいて作られています。

つまり、最初からスイスの高い精度基準を意識して、開発が進められていたことがわかります。

・ムーブメントの振り角

1990年代当時は、ムーブメントの振り角が大きいほど精度が出やすく良いと考えられていました。

しかし、9Sムーブメントはあえて振り角を抑え、長期的に見て精度が安定することを重視して設計されています。

現代では振り角を抑える設計が一般的になっているため、9Sの考え方は当時としては非常に先進的だったと言えます。

 


【9S6系ムーブメント】

続いて、第2世代の「9S6系」についてご紹介します。
このモデルは2010年に登場し、「9S5系」から大きな改良が加えられました。

特に大きな変更点は、「ゼンマイの変更」と「メムス(MEMS)技術の導入」です。

・ゼンマイの変更
ムーブメントには主ゼンマイと髭ゼンマイの2種類がありますが、これらが新しく「スプロン」という素材のゼンマイに変わりました。

スプロンは、東北大学の金属素材研究所と共同で開発された、高性能なゼンマイです。

このスプロンを使うことで、まずパワーリザーブがROLEXのように約3日間持つようになりました。
さらに、衝撃や磁気への耐性も向上したというメリットがあります。

※掲載のアイテムは、KOMEHYO独自で買取り・仕入れ・販売しているアイテムの一例です。

 

・新技術<メムス>とは

メムス(MEMS)とは、非常に小さな部品を精密に作る技術のことです。

この技術を使って、軽量化が重要な「ガンギ車」という部品を製作しました。
その結果、力の伝達ロスを減らし、より効率的に動くムーブメントへと進化しています。

しかも、このメムス技術をグランドセイコーがスイスのメーカーよりも先に導入した点も大きな特徴です。

その他にもいくつか変更点があり、自動巻き上げ機構が新しくなりました。
これまで使われていたオリジナルの「マジックレバー」から、ROLEXやエタ社が採用している「リバーサー」という機構に変わっています。

9S6系では、スイスの基準に合わせてこの機構を見直した印象があります。

こうした改良からも、グランドセイコーが世界のトップブランドと競い合い、挑戦し続けている姿がうかがえ、とても興味深いエピソードです。


【9SA系】

※掲載のアイテムは、KOMEHYO独自で買取り・仕入れ・販売しているアイテムの一例です。

 

こちらは現行モデルの9Sムーブメントの上位機種で、2020年に登場した比較的新しいムーブメントです。

私は、このムーブメントをスイスの標準を完全に超えた優れたものだと評価しています。
従来のスペックに加え、独自の技術も取り入れており、世界中から注目を集めています。

では、このムーブメントのすごいポイントですが、性能が大幅に向上していることです。

9SA系ムーブメントは、振動数が毎時36,000回(=10振動/秒)で、パワーリザーブは80時間という驚異的なスペックを持っています。
これは、高振動で知られる「ゼニス エル・プリメロ」の60時間をも上回る数値です。

振動数を上げながらパワーリザーブも長くするのは非常に難しい技術ですが、両方を実現している点がこのムーブメントの素晴らしい特徴です。

※掲載のアイテムは、KOMEHYO独自で買取り・仕入れ・販売しているアイテムの一例です。

 

ではスペックをあげた要素について紹介します。


①デュアルインパルス脱進機

まず最初にご紹介するのは、「デュアルインパルス脱進機」の導入です。

時計の中には「テンプ」と呼ばれる振り子のような部品があり、これを動かすには多くのエネルギーが必要です。
そのため、エネルギーのロスを減らすために、脱進機の効率が非常に重要になります。

現在、最も一般的なのは「スイスレバー脱進機」という、安全性の高い機構ですが、エネルギー効率があまり良くないという欠点がありました。

この問題を解決したのが「デュアルインパルス脱進機」です。

デュアルインパルス脱進機は、スイスレバー脱進機の安全性と、精度が高い「デテント脱進機」(マリンクロノメーターで使われていた機構)の良い部分を組み合わせた、ハイブリッドな脱進機です。

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②ツインバレルの導入

時計の動力源である主ゼンマイが2つになったことも、大きな性能向上につながっています。
さらに、このゼンマイには「スプロン」という素材が使われているため、80時間もの長いパワーリザーブを実現しています。


③スイスの最先端技術の導入

スイスの高精度な時計には、「巻き上げ髭(ひげ)」と「フリースプラング」という機構が使われています。
特に巻き上げ髭は高級時計にしか搭載されないことが多いですが、ついにグランドセイコーにも採用されました。

しかも、この巻き上げ髭は従来の伝統的な形ではなく、8万回ものシミュレーションを重ねて最も性能が良かった形状が選ばれています。

※掲載のアイテムは、KOMEHYO独自で買取り・仕入れ・販売しているアイテムの一例です。


④デイトジャスト機能の追加

スイスの多くの時計には「デイトジャスト」機能が搭載されていますが、ついにグランドセイコーにも導入されました。
この機能は、夜の12時ちょうどに日付が自動で切り替わるもので、これによってグランドセイコーも世界の高級時計と同じ水準になったと言えます。

※掲載のアイテムは、KOMEHYO独自で買取り・仕入れ・販売しているアイテムの一例です。


まとめ

ここまで各世代の特徴と進化について説明してきましたが、私の率直な感想をお伝えします。
グランドセイコーの素晴らしさは、スイスの技術を取り入れながらも独自の技術を次々と加え、スイス時計に追いつき、さらに追い越そうとしている点にあると思います。
これは、まずは改善点を学び取り入れ、その上で新しい技術を生み出すという、日本ならではの技術革新のスタイルだと感じました。


編集長の思い

ここまでお話しした中でも、デュアルインパルス脱進機は特に優れた技術ですよね。
しかし、世界的に見ても非常に珍しい技術であるにもかかわらず、あまり知られていないのが現実です。
だからこそ、もっと積極的に世界に向けてこの技術をアピールすべきだと思います。

例えば、「デュアルインパルス脱進機」という名前は少し難しいため、もう少し覚えやすい「ハイブリッド脱進機」などに変えて発信した方が、広く認知されやすくなるのではないでしょうか。名前の工夫も重要だと感じます。

また、この脱進機は本当に素晴らしい技術なので、ぜひ9S系のすべてのモデルに採用してほしいです。
そうすれば、クォーツの最高峰「9F」、独自技術の「9Rスプリングドライブ」、そして高性能脱進機を搭載した機械式「9S」という、3つの強力な柱で世界にアピールできます。
これは日本の誇りとしても、ぜひ実現してほしいと思います。

※掲載のアイテムは、KOMEHYO独自で買取り・仕入れ・販売しているアイテムの一例です。


デュアルインパルス脱進機の面白さ

時計の精度を測るために使われる「歩度測定器」という機械があります。
この機械に9SA系のムーブメントを載せると、非常に面白い結果が出るので最後にご紹介します。

通常、歩度測定器では「ビートエラー」という、振り子が左右に振れたときの誤差を測ります。
この誤差は小さいほど精度が良いとされています。

しかし、9SAのムーブメントの場合、このビートエラーの数値が大きく出てしまいます。
なぜかというと、デュアルインパルス脱進機が左右で異なる動きをするため、このようなビートエラーが生じるのです。

ただし、ビートエラーが大きいからといって9SAの精度が悪いわけではありません。
むしろ、非常に高精度なムーブメントですので、不思議な現象と言えます。

さらに通常、歩度測定器の画面には精度を表す折れ線グラフが1本表示されますが、9SAの場合は2本表示されます。
これは他の時計では見られない珍しい現象で、非常に興味深いポイントです。


最後に

いかがでしたか?
今回はかなりマニアックな内容になったかと思います。
まだまだ語りきれない9SAの魅力はたくさんありますが、まずはデュアルインパルス脱進機のことだけでも覚えていただければ嬉しいです。

KOMEHYOでは、今回ご紹介した9SA系のモデルはもちろん、9Fクォーツやスプリングドライブのモデルも豊富に取り揃えています。
グランドセイコーの時計選びで迷っている方は、ぜひ当店の取り寄せサービスをご利用いただき、3つの機種からお気に入りの一本を見つけてみてください。

ご覧いただき、ありがとうございました。


 

 

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