5.2.2016
【時計の使い方を知る】知っていますか?腕時計の大敵は「磁気」!!
Komehyo
ブログ担当者:前川
時計業界にはある常識があります。
それは、
「時計を磁気が発生するものに近づけていけない(※1)」
というものです。
このことを、時計を購入する際に販売スタッフから聞いたという方も多いのではないでしょうか。
そして、現代社会は身の回りの至る所に磁気を発生させるものがります。例えば、スマートフォンなどの携帯電話やパソコンはよく腕時計を「磁気帯び」させる原因です。さらに、女性の方であれば、バッグや財布の留め具に使われているマグネットは強力な磁気があります。
私たちはこれらのような磁気が発生するものを普段なにげなく使用していると思います。そして、もしかしたら人によってはスマートフォンなどが磁気を発生させているという認識が薄くなっていることもあるかもしれません。しかし、時計にとってはその磁気が精度を狂わせ、時には「止まり」をも生じさせてしまう大敵なのです。
今週は、時計の弱点である「磁気」について述べさせていただきます。そして、そんな弱点に対して心強い「磁気に強い腕時計」の存在についても触れさせていただきます。
↑磁気に強い時計も存在する
■なぜ「磁気」が時計の弱点なのか?
時計が強い磁気を受けるとどうなるのでしょうか?これを理解するためには時計の種類ごとに理解する必要があります。下で「時計の種類における磁気の影響」をまとめてみました。
<時計の種類における磁気の影響>
①「機械式時計」が受ける磁気の影響( ※2)
ムーブメントの内部部品は金属でできており、強い磁気を浴びると部品が磁化してしまいます。機械式時計の内部にはゼンマイの解ける速度の制御装置に「テンプ」という部品がありります。テンプは左右均等に動く振り子のような役目をしており、磁気がこのテンプの精密な動きに影響を与えると、時計の精度の悪化や止まりなどがおこることがあります。
②「クォーツ式時計」が受ける磁気の影響 (※3)
アナログ式(針式)のクォーツ時計は磁石の性質を利用する「ステップモーター」という装置があり永久磁石が使われています。そのため、強い磁気を受けると正常に動かないことがあります。
このように、機械式時計・クォーツ時計どちらも磁気による影響があります。もう少し細かなことを述べると、磁気による影響度がより大きいのはクォーツ時計より機械式時計です。それは、機械式時計はムーブメント内にある残留磁気レベルでもテンプに影響がある可能性があるからです。逆にクォーツ時計の場合は、ムーブメント内の残留磁気レベルがよほど大きくない限りは影響が少ないと考えられています。
このような理屈があり、クォーツ時計は磁気で時計が狂ったら時刻合わせで直せば問題ないと考えられています。逆に機械式時計の場合は「磁気で時計が狂う=磁気帯び」と考えられています。つまり、機械式時計が磁気で時間が狂ったら「磁気抜き修理」が必要と判断されます。
■私たちの時計は「規格」で守られている!?
では、腕時計は磁気に対する耐性がないのでしょうか?実は、世界が定めているISO(国際標準化機構)の規格に磁気に関する項目があります。ISO規格では20ガウス(約1600A/m)の基準が設けられており、ISO規格で作られている一般の腕時計にはそれだけの耐磁性能があります。つまり、普通の時計であれば最低限この20ガウスという耐磁性能があり、磁気から守られています。
さらに、別の規格のJIS規格(日本工業規格)でも磁気に関する項目があり、腕時計に耐磁性能を与えようとする姿勢は時計業界で浸透しています。下でISOとJISの両規格の磁気に関する内容をまとめます。
<ISO規格で定められる耐磁性能>
一般の時計:20ガウス(約1600A/m)
ダイバーズウォッチ:60ガウス(約4800A/m)
<JIS規格で定められる耐磁性能>
一種耐磁:60ガウス(約4800A/m)
二種耐磁:200ガウス(約16000A/m)
このように、ISO規格で時計に最低限の耐磁性能が付くことが定められており、さらに日本メーカーの時計であればスペック開示で一種、二種、なし(1600A/m)のどの耐磁性能かが分かります。しかし、この規格の意味を言い換えると「時計が規格値以上の磁気を浴びれば磁気帯びをする」ということです。
↑メーカータグに記載されたJIS規格の表示
■時計を磁気発生物から「5cm以上」離しましょう!
では、どうすれば自分の時計が磁気帯びするのを防ぐことができるのでしょうか。その答えは、磁気を発生させるものから自分の時計を「離す」ことです。
では、どのぐらい離せば良いのでしょうか?例えば、携帯電話のスピーカー部に「密着状態」でれば15000A/m以上の磁気を受けることがあります。場合によっては20,000A/mを超えることもあります。JIS規格の二種耐磁でも耐えられない可能性があります。
しかし、「5cm」離せば一般の腕時計でも耐えれる1600A/m以下になると言われています。実は私たちの生活環境内の磁気発生物であれば、「時計から5cm以上離す」ということをするだけでほとんど磁気の影響を受けることはありません。
私が実際にI-PHONEを手に持って、同じ腕につけた腕時計とI-PHONEのスピーカー部(本体下部にある)との距離を測ったところ約10cmありました。携帯電話を通常使用するぐらいでは磁気帯びリスクは低いと言えます。むしろ磁気帯びリスクになる要素は「腕時計を外した際に置く場所」にありそうです。例えば、携帯電話の近くに置く、テレビやパソコンの近くに置く、更に女性の場合はバッグの中のマグネット留め具の付近に入れるなどが危険な行動になります。
↑バッグのマグネット留め具も磁気注意
■「磁気に強い時計」を持つことで気が楽になる!
これまでに述べたように、大切な自分の時計を磁気から守るには腕時計を外した際に置く場所を気をつけるなど、「普段の使い方」を気をつける必要があります。私たちは仕事から疲れて帰宅した場合でも、飲み会からほろ酔いで帰ってきた場合でも自分の腕時計を「気をつけて置く」必要があります。特に高級な時計であればあるほど気を遣うことになるでしょう。
そのような“気遣い”から私たちを解放してくれる時計があります。それは、磁気に強い時計である「耐磁時計」です。IWCの「インヂュニア」や「マークシリーズ」、ロレックスの「ミルガウス」や「オイスタークォーツ」、ヴァシュロン・コンスタンタンの「オーヴァーシーズ」などが時計業界では有名な耐磁時計だと思います。
さらに、最近登場した耐磁モデルは従来のものよりも個性を打ち出しています。例えば、2014年にオメガから登場した「シーマスターアクアテラ マスターコーアクシャル」は従来の耐磁スペックをはるかに凌駕するモデルとして世間を驚かせました。従来のものは耐磁性能が強いものでも100ガウス(80,000A/m)でしたが、このオメガの新モデルはなんと15000ガウス(1,200,000A/m)の耐磁性能をもっています。従来の耐磁時計は時計内部のムーブメントまで磁気が到達しないようにする構造でしたが、オメガはムーブメントの部品を変更してムーブメント自体が磁気に強い構造にしました。その飛びぬけた耐磁スペックを私たち一般人が必要とすることはないと思いますが、超オーバースペックにしたことがオメガだけの個性と感じます。
その他の個性的なモデルとしては、同じく2014年に登場したボールウォッチの「マグニートーS」があります。このモデルは裏蓋をシースルーにしているモデルですので、通常は耐磁性能が強いわけではありません。しかし、ベゼルを操作すると、裏蓋に仕掛けられた耐磁シャッターが閉まり耐磁時計に変身します。
↑15000ガウス耐磁のシーマスターアクアテラ
(型式231.10.42.21.01.002)
↑耐磁時計に変身するマグニートーS
(型式NM30220-N1CJ-BK)
■最後に
私たちの身の周りに潜む「磁気」。腕時計にとっては脅威の存在です。その脅威から私たちの腕時計を守る手段は二択です。
「磁気帯びをさせない使い方」
をするか
「磁気に強い時計を選ぶ」
かです。
最近は耐磁時計のラインナップも増えてきており、後者の選択をとりやすくなってきています。もしこれから時計を購入する予定がある方は、是非、耐磁時計も選択肢にいれてみてはいかがでしょうか!
※1・・・時計を使用する際には「磁気」以外にも 注意点があります。その他の点はかつてのブログ(やっていませんか? 腕時計の「危険な使い方」)をご参照ください。
※2・・・機械式時計とは「ゼンマイ」を巻き上げ、そのゼンマイが解ける力で動く時計です。ゼンマイを必ず手で巻き上げなければならない「手巻き式」と、普段の腕が動く力でゼンマイが自動で巻き上げられる「自動巻き式」があります。機械式時計は時刻を刻む必要がありますので、そのゼンマイが一瞬で解けないように制御する装置があります。その制御装置には振り子時計でいう振り子の役目をする「テンプ」というものが採用されます。
※3・・・クォーツ時計とは一般的に普及するいわゆる「電池で動く時計」です。定期的に電池交換をする一般「クォーツ」から、ソーラーパネルの発電を充電池に溜める「ソーラークォーツ」などいくつか種類があります。
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