藍染とは|生きた染料「藍」の持つ効果と歴史、インディゴ染めとの違いも解説
藍染とは日本の伝統的な染色技法であり、深みとやわらかさが共存した青が魅力です。天然染料なので肌への負担が少なく、その製品は丈夫で長持ちしやすいといった効果も。魅力溢れる藍染の特徴や歴史の他、藍の持つ効果や染め方などを紹介します。またインディゴ染めとの違いも解説しますので、製品を選ぶ際の参考にしてみてください。
目次
藍染(あいぞめ)とは
歴史の長い染色技法である藍染の色は、日本を象徴する色とも言われています。まずは、藍染の特徴をチェックしていきましょう。
植物の藍を用いた染色技法
藍染(あいぞめ)とは日本の伝統的な染色技法のひとつです。基本的には植物染料の藍を使って染め上げることを指しますが、染色した後の布地のことを藍染と呼ぶこともあります。藍染の原料は藍と付くさまざまな植物。日本で代表的なものは、タデ科の1年草であるタデ藍で、古くから着物などのさまざまな布製品に用いられてきました。
深みと温かさのある藍の色は、明治時代に日本を訪れたイギリス人化学者から「ジャパン・ブルー」と称賛されたという逸話もあります。
天然繊維と相性が良く濃淡も出せる
藍染は綿や麻、絹のような天然繊維と相性が良い染色技法で、きれいに染まりやすく色が褪せにくい傾向があります。日本で特に生産が盛んだったのは阿波藩(現在の徳島県)で、上質な藍がよく育ったことから「阿波藍」と呼ばれています。その他にも、北海道の「伊達の藍」、沖縄の「琉球藍」などが有名です。
藍色、紺色、浅葱色など、藍染は濃淡を出すこともできて、その種類は48色に及ぶのも大きな特徴。ちなみに、2024年に新一万円札の肖像になることが決定した、2022年の大河ドラマの主人公となった渋沢栄一の生家は藍染の染料となる藍玉の製造・販売を行っていました。
藍染の歴史
藍染の歴史は古く、藍は人類最古の染料とも呼ばれています。世界と日本の藍染の歴史を見ていきましょう。
紀元前3000年頃には藍染が行われていた
藍は人類最古の染料で、紀元前3000年頃には既に藍染の染織が行われていたと言われています。古代文明が栄えたエジプト、インドをはじめ、中南米やアフリカなど、世界中のさまざまな民族が用いた歴史を持ちます。現存する世界最古の藍染の布は、紀元前2500年~1200年頃のエジプトのミイラに使われていたものです。
日本伝来したのは奈良時代
日本には、奈良時代に中国から朝鮮を経て藍染が伝わりました。法隆寺や正倉院にも藍染の布類が多数保管されており、平安時代までは上流階級が身に着ける高貴な色として扱われていました。
戦国時代になると、武士が好んで身に着けるようになります。藍で染めた濃紺は褐色(かちいろ)と呼ばれ、「勝ち」に通ずるという縁起担ぎが身に着ける理由のひとつだったようです。庶民の間に浸透したのは江戸時代になってからで、着物や作業着、のれんや生活雑貨など幅広い藍染製品が作られるようになりました。
戦時中に藍は栽培禁止になった
明治時代には国鉄や郵便局の制服に使われるなど、藍は日本を象徴する色と言っても過言ではないほどに人々の日常に浸透していました。しかし明治後期に入ると、合成染料の登場や安価で早く濃く染まるインドアイが普及したため藍の生産量は激減。さらに第二次世界大戦中であった昭和初期には、食料を優先させるために藍は栽培禁止になりました。
このことから藍は絶滅の危機に瀕しましたが、徳島県の職人は密かに栽培を継続していました。そのため、藍は残存し、技法の伝承は現在まで続いています。現在でも藍の栽培産地の1位は徳島県で、次いで北海道、青森県となっています。
藍染の効果
藍染の原料となる藍には解熱・解毒などの効用があるとされ、薬としても重宝されてきました。続いては藍染の効果を紹介します。
防虫・消臭・抗菌・紫外線防止効果
藍には虫が嫌う成分が含まれているため、防虫効果が期待できると言われています。虫だけではなく蛇も寄せ付けないので、昔はもんぺなどの仕事着にも藍染が用いられていました。それだけではなく、藍は消臭効果や細菌の増殖を抑制する効果、紫外線防止効果もあると考えられています。
藍に含まれる成分「トリプタンスリン」には強い抗菌作用があり、アトピー性皮膚炎への治療効果が期待できるといった研究結果も。肌に優しいため、皮膚炎などのトラブルを抱えている人でも安心して着用しやすいでしょう。
解熱・解毒・抗炎症薬としての効果
藍染の原料である藍には解熱・解毒・抗炎症作用があるとして、薬用植物として用いられた歴史も持っています。江戸時代には解毒と傷を治す薬として重宝されていました。また、栄養素も豊富に含まれているため種や葉を煎じて飲むと健康増進効果が期待できます。特にポリフェノールが豊富で、ブルーベリーの4倍含まれています。
生地を強くする効果
通常の染色方法では生地が多少弱くなってしまう傾向がありますが、藍染は反対に生地を強くすると言われています。本藍で染めた生地や糸は、通常の生地より20%も強くなります。鎧や兜の紐、剣道着など、激しい動きが伴う衣服にも使用されてきたのは、丈夫で長持ちしやすいためでしょう。
また藍染は洗っても色移りしにくいので扱いやすいのも魅力です。永く愛用しやすいためサステナブルであり、現在ではスローファッションの観点からも注目されています。
藍染の染料とやり方
伝統的な技術を用いる染料を作るのは難しいですが、自宅でも藍染を楽しめる方法はあります。ここでは、藍染の染料であるすくも藍と沈殿藍の特徴を解説し、自宅でできる藍染の方法を紹介します。
藍染に使う染料①すくも藍
すくもとは、藍の葉を発酵させて堆肥状にした染料のこと。藍の葉を細かく刻んで乾燥させた後、微生物を使って発酵・熟成させます。藍は水に溶けませんが発酵させることで可溶化し、この工程は「藍建て」と呼ばれています。藍が「生きた染料」と呼ばれるのは、発酵・熟成の過程で変化していくためです。
昔はすくもを丸めて球形にした藍玉が流通していました。作るのに数ヵ月と長い期間がかかることも特徴です。現在では、すくもを作る職人は数人しか存在していません。
藍染に使う染料②沈殿藍(泥藍)
沈殿藍は藍成分を濃縮して作られる染料で、泥藍(どろあい)とも呼ばれています。藍の葉を水に漬けて色素と酵素を溶かし出し、石灰を加えてアルカリ性にすることで色を生成するのが特徴です。藍の色素が水に溶けず底に沈殿するところから、「沈殿藍」や「泥藍」の名前がつきました。
すくも藍は発酵させて長い期間で生成するのに対し、沈殿藍は石灰があれば1週間程度でできるので比較的挑戦しやすいでしょう。
藍染のやり方
藍染は染料があれば、家庭でも挑戦できます。ここでは市販の染料を使うやり方を紹介します。
<用意するもの>
・藍の染料
・生地(綿や麻などの天然繊維のもの)
・水(藍の10~20倍の量)
・軍手やゴム手袋
・バケツやタライなどの大きめの容器(15リットル以上のものだと安心)
・オキシドール(なくても可)
<手順>
1. 染料の記載事項に従い、染液を作る
2. 染液に生地を浸し、生地全体に染液が付くようにゆっくりとかき混ぜる
3. 何度か取り出して広げて空気に触れさせる
4. 好みの色合いになったら生地を取り出す
5. 色止めとして、過酸化水素水(水1Lに対してオキシドール50ml入れたもの)に10分程度浸ける(省略可)
6. 水洗いと脱水をして天日干しする
生地の一部を輪ゴムで留めたり、染める長さを部分ごとに変えたりすると模様やグラデーションができます。
藍染とインディゴ染めとの違いとは
藍染とインディゴ染めの大きな違いは染料です。藍染が植物から生成される天然染料を使うのに対し、インディゴ染めは化学薬品を使用して人工的に作られた合成染料(インディゴ)を用います。伝統的な藍染は時間と高い技術力が必要ですが、インディゴは安価で染まりやすいのが特徴です。
藍染の生地は使い込むうちに色が落ち着いてやわらかさが増していきます。インディゴ染めの生地は摩擦や洗濯で色落ちが起こります。色落ちと聞くと欠点に思えるかもしれませんが、ジーンズではそれが味になります。藍染もインディゴ染めも、それぞれ違った味わい深さがあるのがポイントです。
藍染製品で生きた染料「藍」の持つ効果と歴史を感じよう
やわらかく深みのある青が魅力的な藍染製品は、現在でも多くの人々の心を惹きつけています。丈夫で長持ちしやすい藍染製品は永く愛用できるので、サステナブルな活動にもつながります。天然染料を使用しているからこそ楽しめる色味や風合いの変化を、実際に体験してみてはいかがでしょうか。
草木染めとは。身近な食材を利用してサステナブルファッションを楽しもう 草木染めとは、植物を染料にした染色方法のこと。草花だけではなく、普段食べている野菜や果物の皮でも、美しい色が出せます。材料や染め方によって色味に変化があり、環境にも優しいのが大きな魅力です。ここでは、草木染めの魅力や家庭でのやり方、おすすめの食材などを紹介します。