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【インタビュー】廃棄される花に輝くチャンスを。サステナブルな和紙の美しさ

年間で10億本を超える花が廃棄される「ロスフラワー問題」。そんな現状を変えるべく、廃棄される花を美しい和紙として甦らせる活動をしているのが「INVISIBLE FLOWER」の出水佳恵さん。今回はKOMERU副編集長の五郎部が、「INVISIBLE FLOWER」のサステナブルなものづくりについてインタビューしました。

美しい花が、誰にも届かずに捨てられていく現状が悔しい……!

廃棄された花

副編集長 五郎部 怜(以下、五郎部):

本日はどうぞよろしくお願いいたします。実は私もお花が大好きで、大学の卒業制作でロスフラワーについて調べたこともあるので、出水さんの取り組みについて以前よりいろいろとお話をお聞きしたいと思っていました。
出水さんは元々デザインのお仕事をしていたとのことですが、なぜ廃棄されるお花に注目しはじめたんでしょうか?

出水佳恵さん

出水佳恵さん

出水さん:

私は元々店舗の設計をしていて、特に飲食店や美容院などを手掛けていたので、お花はとても身近なものだったんです。
個人的にもフラワーアレンジの教室に通うくらいお花が好きだったので、将来は何か花関係の仕事もしてみたいと、デザイン仕事の傍ら、花市場で働き始めました。

五郎部:

店舗設計のお仕事をしながらお花のお仕事も始めたんですか?!

出水さん:

そうなんです。興味を持ったら動かずにいられない性格で(笑)。
朝4時から10時までは花市場での仕事。昼から夜に設計やデザインの作業をし、とにかく寝る暇がありませんでしたが、好きなことだったので楽しかったですね。

五郎部:

そこでお花が廃棄される現状を知るんですね。

出水さん:

廃棄花(生産流通段階で未利用のまま廃棄された花をこのように呼んでいます)のことは元々少し気になっていた問題だったのですが、実際現場で働いたことで、どういう場面でどのくらいの量が廃棄されるのか、市場の方や花農家に直接出向いたり、とにかくいろんな人に聞いて回ることができ、廃棄花のリアルな現状を知りました。

その中で、お花屋さんに届く前に捨てられてしまう花があると聞き、誰にも届かずに廃棄なんて……と、自分のエゴだとは思うものの見過ごせなかったんです。せっかく誰かに届けるために生まれてきた命なのに、知られぬまま捨てられるのは悔しい!!って。

五郎部:

十分美しいお花なのに、辛すぎますね……。

出水さん:

そうなんです。そこからどうしようかと1年くらいモヤモヤ考えた後、やっぱり何かしなきゃ、自分だからできる方法で花を人に届けたいという思いから「INVISIBLE FLOWER」の活動を始めました。

「誰の目にも触れられなかった花」にこだわったモノづくり

花和紙で作られた製品

五郎部:

「INVISIBLE FLOWER」の活動を始める上で、こだわったことはありますか?

出水さん:

廃棄される花の中にもいろいろあって、生花店での売れ残りや、イベントで使ったあとのお花というのがイメージしやすいと思うのですが、例えば結婚式などで1度でも使われたお花は、ゲストの皆さんの目に触れ、役目は果たしていると思ったんですね。
だからこそ「INVISIBLE FLOWER」の場合は、市場に出回る前に廃棄されてしまうお花に焦点を当てました。

五郎部:

誰の手にも届かなかったり、選んでもらえなかったお花ですね。それってそもそもどうして廃棄になってしまうんでしょうか?

出水さん:

お花屋さんって店頭にはまっすぐにすっと伸びたお花が主に並んでますよね。運びやすさや手入れのしやすさなど、流通コストを下げるという目的もあるので、しょうがないのですが、曲がってしまったお花はその時点で廃棄されることが多いです。
また生産の場面でも、1本を美しく咲かせるために脇にある花を切ってしまうこともあります。

五郎部:

もったいないと思ってしまいますが、商品にできない規格外の花がどうしても出てしまうんですね。

出水さん:

そうなんです。でも私は廃棄があることが悪いことだとは思っていなくて、美しいお花を皆さんに届けるためには大事なことでもあります。
だからこそ、私がこの廃棄花を少しでも減らすための活動をしなくてはと思いました。

数々の試行錯誤の上、運命的に出会った和紙づくり

花和紙

五郎部:

そこからどうやって、花和紙にたどり着いたんでしょうか?

出水さん:

まず、ブランドを始めるときに考えたのは、「生花のまま安売りをして花の価値を下げたくない」ということ。ですからそのまま売るのではなく、デザインや届け方を工夫し、付加価値を付けたプロダクトとして人の手に届けたいなと考えました。

特に大事にしたのは、花の美しさを届けること。プロダクトとして美しいものを作ることです。
廃棄された花と聞くとネガティブイメージになりがちですが、そうではなく「今まで全然知らなかったけど、これめっちゃ素敵じゃない?」みたいな気持ちで、「かわいそうだから」ではなく「美しい、素敵なものがあるね!」とポジティブイメージで手に取ってほしいと思っていました。

五郎部:

ものづくりをしようと決めてから、花和紙でいこうと即決したんですか?

出水さん:

いえいえ全然決まっていなくて。まずはこの花をどうしよう?というところから、本当にゼロから考えました。
私はものづくりに関して素人だったので、最初は試行錯誤の連続です。キャンドルに入れる、草木染め、花を凍らせてみるなど、花で何ができるか色々とチャレンジしたのですが、なかなか自分の表現したいお花の美しさには辿りつかなかったんです。そんなときに偶然出会ったのが和紙。

和紙工房の方に相談させていただく機会があり、試作を行ったのですが、もう作っている工程から美しくて、完成品も思っていた以上の出来!あぁこれならお花の美しさを再現できる!と確信し、花和紙を商品にすることにしました。

日に日に変わる変化も楽しめる「花和紙」独特の美しさ

花和紙の製造の様子

五郎部:

花の和紙というと、押し花をイメージしていたのですが、花和紙はまた違う工程なのですか?

出水さん:

一般的に花を使った和紙は、押し花を使うことが多いのですが、この「花和紙」は生の花を漉きこんでいるのが特徴です。
花が本来持つ透明感や色合い、質量や感触を大切にしたかったので、お花はドライ加工したりせず、生のまま使用することにこだわっています。
特殊な加工はせず、そのままの形で使ったり、カットして花びらだけ、葉っぱだけ使うなど、お花によって工程を変えています。

五郎部:

ドライと生花だと、何が変わるんでしょうか?

出水さん:

生花なので同じお花を使った和紙でも、色合いに差が生じたり退色のスピードも違ってきます。少しづつ色合いが変わってくるのですが、その変化も含め楽しんでいただけるのも魅力の一つです。

花和紙の製造の様子

五郎部:

生花にすることで、大変なことも多そうですね……。

出水さん:

そうなんです。生の状態で加工するので、お花の状態を保つために手入れも必要ですし、保管にも場所をとります。
制作スケジュールも花の状況に合わせないといけないので、ドライに比べ大変さはだいぶ変わりますね。生産上はドライフラワーにしてストックしておけば便利なのですが、やっぱり……生花が好きなんです!

自然そのままの生花しか使っていないからこそ、花和紙の色がだんだんと変わっていきますが、なるべく長く色を楽しんでもらえるように、色持ちの良い花を選んでいますので、変化の色味も楽しんでいただきたいですね。

サステナブルでありながら、美しいデザイン性を追求

五郎部:

どのアイテムもすごくきれいですが、特におすすめのプロダクトはありますか?

出水さん:

個人的におすすめなのは、しおりですね。私は、元々本が読み切れないタイプですぐ途中で放りっぱなしてしまう性格だったんですけど、このしおりを使うようになってから本を開くのが楽しみになって、読書が好きになりました(笑)。

花和紙で作られたしおり

五郎部:

私もすごく可愛いなって思いました!スマホのクリアケースに入れるのも素敵そう。
サステナブルだけど、プロダクトデザインが美しいって大事ですよね。

出水さん:

ものづくりは、自分自身が作りながらわくわくできること、自分が使いたいものってことも重要だと思っているので、デザイン性にはこだわっています。
紙のままでも販売しているので、最近ではアーティストさんに使っていただくことも増えました。書を書くのに使っていただいたり、パーティーやウエディングのペーパーアイテムとして利用していただいた事例も素敵でしたね。加工がしやすいのも利点なので、ぜひ自由に使っていただきたいです。

最近はデザイナーさんにバッグや服を作ってもらったり、コラボレーションにも挑戦。今は主に一人でやってるので、プロダクトのラインナップは限られますが、外の才能と掛け合わせて、新たなものづくりにもチャレンジしていきたいと思っています。

五郎部:

サステナブルでありながら、プロダクト自体が魅力的で、美しいデザイン性というのはすごく大事な点。今後のコラボも楽しみです!

「INVISIBLE FLOWER」これからの未来と可能性

五郎部:

「INVISIBLE FLOWER」としてこの後目指したい目標などはありますか?

出水さん:

まずは、さらに多くの廃棄花を活用していくこと。やはりまだまだ廃棄のお花ってたくさんあるので、新しいルートを開拓して、いろいろな生産者さんと提携し、幅広く仕入れができるようにしたいですね。

そして、廃棄花自体を減らすこと。そのためには、生産者の方々に廃棄花にも価値があると気づいてもらうことも大事ですよね。廃棄してしまう花を活用して、利益を生み出せることが世の中に広がれば、廃棄する花も削減できるのではと思っています。

花市場で仕入れる出水さん

花市場で仕入れる出水さん

五郎部:

より多くの廃棄花を活用することだけでなく、廃棄花自体を減らす。この両輪での活動が大事ですよね。

出水さん:

そうですね。そしてこれは花業界に限らずですが、少し違う視点が入ることで、もったいないを減らせる可能性はたくさんあります。
私はデザインの業界からお花の業界に入ったからこそ、できることがあったと思うので、業界にとらわれず「これって、他にこんなこともできるよね」と、可能性を広げていく人が増えるといいなと思います。

五郎部:

確かに、ずっと同じ業界にいるとそれが当たり前の感覚になってしまいがちなので、いろいろな人の様々な視点を取り入れて課題を解決できたら、よりよい世界になりそうですよね!
出水さんは2023年からフランスで活動されているということで、日本とフランスではサステナブルへの意識も違うと思いますが、フランスでは出水さんの活動はどのように受け止められていますか?

出水さん:

フランスでは日常的に花を飾ったり贈ったりするので、花そのものに対する意識も違いますが、去年パリで展示に出展したときは、まず花和紙を見て「綺麗だね」と言ってくれて、その後私の活動の背景を話すと「めちゃくちゃ良い!」と喜んでくれました。
「納得感を持って良い物を買えた」と感じてくれたようで、それもひとつのサステナブルのかたちなのだと思います。

五郎部:

何を使っているか、何に配慮しているかなど、プロダクトの背景もきちんと分かった上で買ったり使ったりするという意識が根付いてるんですね。
最後に出水さん個人として、やりたいことや目指したい未来像はありますか?

出水さん:

お花だけじゃなく、人間以外の生き物で、人の目に触れず、私たちの生活の下で死んでいったり、居場所を奪われたりする命がたくさんあると思っています。そういう命とどう共存していくかを考えていきたいです。
そして、私たちの取り組みを知っていただくことで、自分以外の命に目を向けられる方が増えればいいなと思っています。

出水さんが以前開催した、花和紙を作るワークショップの様子

出水さんが以前開催した、花和紙を作るワークショップの様子

五郎部:

「INVISIBLE FLOWER」のような素敵なプロダクトを通じて、廃棄花を知ることで、お花のことだけでなく社会や環境に関することに興味を持てるようになったり、今までよりも広い視野で世界を見られるようになれたら素敵ですよね。
そういった意味でも「INVISIBLE FLOWER」の活動はとっても大きな可能性を秘めているなと思いました。今後の活動も楽しみにしています。本日はありがとうございました!

副編集長 五郎部‘EYE

花和紙を知った時は単純に「綺麗!かわいい!」という思いで興味をひかれましたが、今回制作に対する思いを知りさらに好きになりました。
一度も人の目につくことなく廃棄されてしまうお花たちに目を向け、新たな価値を生み出していくため試行錯誤されている出水さんの日々が、あの花和紙の美しさに繋がっているんだと思いました!まだまだ進化し続ける「INVISIBLE FLOWER」の活動をこれからも応援しております!

PROFILE

「INVISIBLE FLOWER」
デザイナー/ディレクター  出水 佳恵
空間デザイナーとして飲食店・美容サロンなどの店舗づくりや空間装飾に携わる。2019年より「INVISIBLE FLOWER」花和紙のデザイン・プロデュース、企業とのコラボレーションやアート制作などを通し、廃棄花をなくす活動を続けている。

profile
KÓMERU編集長 五郎部
サムネイル: KÓMERU編集長 五郎部
日本最大級のリユースデパート・コメ兵のオウンドメディア「KÓMERU」の編集長。 賢くオシャレにサステナブルを楽しむ方法を日々発信中。 編集長の傍ら、KOMEHYO SHINJUKU WOMENにも勤務し、若手ながらハイブランドに精通したスタッフとして活躍中。