【インタビュー】使われなくなった着物に新たな価値を。京都発のアップサイクル
日本最大級のリユースデパートKOMEHYOのオウンドメディア・KÓMERU副編集長の五郎部が、京都発の着物アップサイクルブランド「季縁-KIEN-」(以下、KIEN)へインタビューに伺い、事業を通じたサステナブルへの想いをお聞きしました。
目次
着物のアップサイクルブランド【季縁-KIEN-とは】
KÓMERU副編集長 五郎部(以下、五郎部):
着物をドレスへアップサイクルするブランド「季縁-KIEN-」を立ち上げられたきっかけを教えてください。
KIENディレクター 北川(以下、北川):
私は京都で生まれ、さまざまなジャンルの職人さんが身近にいる環境で育ちました。もともと絵付けの技術を教える仕事をしながら、インバウンド需要が高まる中で職人さんの体験教室などのお手伝いをしていた頃に、高校の先輩から連絡があったんです。
KIENディレクター北川淑恵さん
聞けば、地染め職人として皇室の方の着物を染めるほど高い技術を持つその先輩が「このままでは着物文化が衰退してしまう。どうか手伝ってほしい」と言うのです。その想いに突き動かされ、最初は手探りで着物の白生地からドレスを作ることを始めました。しかしそれではコストが高くつきます。どうすれば良いかと考えあぐねていた時に、知り合いの呉服屋さんから、もう着物としては販売できない在庫がたくさんあることを聞きました。
さっそく訪ねると、そこに並んでいたのは何トンもの着物や生地でした。それも、現在では再現が難しい技法を技法を用いた素晴らしいものばかりです。それは私にとって大きな衝撃で、着物のアップサイクルに取り組むきっかけとなりました。
素晴らしい価値を持ちながら使われなくなった着物をドレスにアップサイクルすることが、京都の職人さんや着物文化を助けることにつながるのではないかと思い至り、2020年にKIENを創業しました。
ヴィンテージ着物を現代的なドレスへ蘇らせる
五郎部:
KIENでは自社在庫やお客様からの持ち込みを含め、既存の着物をアップサイクルする取り組みをされています。新しく仕立てた着物を使うことはないのでしょうか?
北川:
新品でも、元々商品として作られてストックされていた着物以外は一切使っていません。何故かと言うと、過去に作られた着物や、その作り手をリスペクトしているから。弊社の在庫の大半は、廃業した呉服屋さんなどに眠っていたデッドストックです。特に1970年から1980年代にかけて生産された着物は「最後の手仕事」と言われ、生地の素材や職人さんの手仕事も質の高いものです。糸ひとつ取っても、今とは質が異なります。昔の蚕の糸って、とても強いんです。
ドレスの素材に着物を使うメリット
五郎部:
ショールームには思わず見惚れるほど素敵なドレスが並んでいますが、ドレス素材として着物にはどのようなメリットがありますか?
北川:
材質が正絹であれば肌ざわりの良い生地である、日本のアイデンティティを持ったデザインを表現できる、など色々な良さがあると思います。私たちの想う価値は着物の生地が持つ価値やエネルギーを、そのままドレスにできることです。着物を着ると、どこか凛とした気持ちになりませんか?それは、着物に込められた職人たちの想いが何層ものレイヤーになって感じられるからだと思うんです。1着の着物が仕上がるまでには数多くの工程があり、すべてに熟練の職人の技術が必要です。このドレスを着ると華やかな気持ちになるし、エネルギーを感じられるのは着物の生地の醍醐味だと思っています。
五郎部:
たしかにこうして着物を間近で見ると、生地の凹凸や華やかさの迫力がすごいですね。
北川:
その凹凸はシボといって、糸に2千回、3千回と強い撚りをかける特殊な製法によって生まれるものです。
五郎部:
3千回も!そんなに回転させるんですね。着物は奥が深いです。
着物をドレスにアップサイクルする難しさ
五郎部:
着物をドレスに仕立てる上で、難しいのはどんなところですか?
北川:
最も難しいのは、着物だった時の柄を活かしながら、ドレスとして違和感なく着られるデザインに再構築することです。着物は基本的に幅37センチ×長さ12メートルの反物から作られますが、着物として着た時には美しく配置された柄も、糸をほどいて反物にすると位置がバラバラになってしまいます。弊社では、着物が持つ本来の美しさを最大限活かせるようにデザインを工夫しています。
また生地の取り扱い方にも注意が必要です。着物の生地は撚糸から作られるため、カーブラインの裁断が難しく、また水に濡れると縮む性質があります。生地のメンテナンスや縫製は、着物生地の扱いに関して素晴らしいスキルを持った職人さん、縫製工場さんに請け負っていただいており、彼らの技術によって生まれ変わったドレスは高い評価を得ています。
五郎部:
着物によってはダメージがひどい場合もあると思うのですが、どんな状態の着物でもアップサイクルは可能なのですか?
北川:
はい。クリーニングを含む生地のメンテナンスはすべて職人の手で行います。色あせがあれば染め直し、刺繍を足し、シミや色移りを補正するなどの工程を経て、糸をほどき、洗い張りをして生地をリフレッシュさせた後、ドレスやワンピースにアップサイクルしています。
大切な着物を無駄なく使い切りたい
五郎部:
ドレスを作る過程でハギレが出ることはあるのですか?
北川:
大切な着物をちゃんと使い切りたいので、極力ハギレが出ないようS・M・L・XLまで1着の着物から作れるようデザインしています。ただし着物によっては幅が足りない場合もあるため、2着使って作ることもあります。あるいは2種類の着物を1着のドレスに仕立てることも可能です。
五郎部:
ちなみにレディース以外のオーダーも受け付けているのですか?
北川:
オーダーがあれば子どもさん用のドレスを作ったり、メンズのワークシャツやパンツを仕立てることもあります。他には白無垢をウエディングドレスに仕立てる際に、同じ生地で新郎のチーフやタイを作ってリンクコーデするのも人気があります。
五郎部:
それは素敵ですね!私自身、和のテイストが好きなのですごくいいなと思います。
北川:
おかげさまで、最近は五郎部さんのような若いお客様も多いんですよ。日本古来の文化や風習が見直されるのは、素晴らしいことだと思っています。
作り手やお客様の想いをつなぐ着物のアップサイクル
五郎部:
お客様が着物を持ち込まれる理由やきっかけにはどんなものがありますか?
北川:
ご家族から受け継いだものの、着付けが難しい、着物を着ていくシーンが少ないためタンスに眠ったままになっている着物が中心ですが、中には一度も袖を通すことなくしつけ糸が付いたままの留袖、お母様が準備したものの娘さんが着てくれなかった振袖など、さまざまです。もう着物としては着ない、あるいは一度も着たことがないけれど、ドレスなら着てみたいという気持ちで持ち込まれています。
他には海外挙式のために白無垢をウエディングドレスに仕立てたいというお客様や、海外に住んでいて「日本人としてのアイデンティティを表現したいから」とオーダーされるお客様も多いです。そもそも私が着物のアップサイクルを始めたきっかけのひとつも、海外での実経験でした。
当時は海外でお茶会を開く時に着物を着る機会が多かったのですが、日本から着物を持って行くのはなかなか面倒で……そこで自分が作った着物ドレスを着てNYにオペラを見に行ったら、とても褒められたんです。その時に、自分が日本人であることの素晴らしさを感じることができました。だからこそ、海外に着物ドレスを持って行きたいというお客様の気持ちがとてもよく分かります。
オーダーから完成までの流れ
五郎部:
注文してから、着物ドレスが完成するまでの流れを教えてください。
北川:
納品までは約2ヵ月かかります。店舗の場合はまずお客様のご希望を伺い、ドレスの試着、採寸を行って注文内容が確定した後にお仕立て作業に入ります。オンラインでオーダーされる場合は、お送りしたサンプル品を試着してお客様ご自身にてピンで印をつけていただき、最終的な使用を確定してからお仕立てに進む流れです。または、ショールームに置いている既製品をリサイズして仕立てることも可能です。
五郎部:
例えば海外から旅行で京都に来られた方が、こちらで着物ドレスを仕立てることもあるのですか?
北川:
簡単なものなら1~2日で仕立てられるので、大きめサイズの既製品をリサイズして、お客様の滞在中にホテルへ届けることもあります。
五郎部:
そんなにスピーディーに出来上がるのですね!
北川:
高品質かつ安定した生産体制も弊社の強みです。
着物のアップサイクルを通して“絆”をつなぐお手伝いを
五郎部:
お客様から、持ち込まれた着物にまつわるエピソードを聞く機会はありますか?
北川:
弊社はリピーターのお客様も多く、1着目を弊社の生地で作って気に入っていただき、2着目はご自分で着物を持ち込まれるというケースも少なくありません。
以前にお客様から「この着物は、遠方に住むおばあちゃんの家に行って一緒に箪笥を開けて選んだんです。この着物にまつわる思い出話やおばあちゃんの想いを聞かせてもらいました」と伺ったことがありました。この事業を通して、家族間のコミュニケーションや、絆というものを少しお手伝いできているのかなと思い、とても嬉しくなったことを覚えています。
五郎部:
着物って、家族の歴史を映し出す特別な存在だと思います。大切な着物を通して、絆をつなぐお手伝いができるって本当に素敵ですね。そして、うちの祖母の家の箪笥にも着物が眠っているはずなので、今度行った時に聞いてみようと思いました!
京都発・着物のアップサイクルで時代を創る!
五郎部:
京都という場所で着物の仕事に携わるメリットはありますか?
北川:
メリットは大いにあると思っています。私自身、時代の波に乗るのではなく、「時代は作るもの」だと思っているタイプなんです。京都という土地柄、過去に大量生産、大量消費されてきたものをどう考えるか、その意義を表明することが、もしかすると時代をみんなで作っていく行為なのではと思っています。
五郎部:
時代は私たちで作っていくもの……かっこいい!たしかに京都という歴史のある街だからこそ、サステナブルへの意識が育ちやすいし、それぞれが自分ごととして考えられるのかもしれませんね。
北川:
この街に暮らしていたからこそ得られた気づきは多いです。それに私の感覚、感性があるのは京都のおかげです。この街に感謝をしているからこそ「どうすればもっと京都が良い街になるだろうか」と、どんな時も考えています。
たとえ高い技術をもって美しい物を作っても、誰にも使われなければ意味がありません。私たちが行う着物のアップサイクルの取り組みが、誰かのきっかけになればと思います。
今後の展望について
五郎部:
今後の展望についてお聞かせください。
北川:
今年の春に東京出店を計画しています。弊社の商品はオンラインよりも実際に見て触れて買われる方が多いので、各地域に提携店を増やすことも重視し、また今年からは海外向けの販売も強化していく予定です。
五郎部:
着物がこんなにステキなドレスになるんだってこと、もっともっと多くの人に知ってほしいです!本日はありがとうございました。
「着物っぽくてステキ!」と、気になっていたカシュクールドレスを試着。ラップワンピースで1分もかからずに着れました。
着物の伝統的なシルエットが印象的なカシュクールドレス。胸元に入った模様が素敵です!
丹念な手仕事による美しい刺繍を活かしたデザイン
【取材を通じて】副編集長後記
取材を振り返って、五郎部副編集長が感じた“サステナブル”とは…。
KOMEHYOは1947年にお客様が使わなくなった着物を買取り、必要な方に販売することから始まった会社です。必要に応じてメンテナンスをして次の方へ繋いでいます。
着物は当社にとっても思い入れのある商材だけに、今回のインタビューは本当に楽しみにしていました。
アップサイクルによって作り手やお客様の想いをつなぎ、サステナブルな社会形成に貢献したい。KIENの北川さんの想いは、KOMEHYOの「良質・価値の伝承(リレーユース)」の姿勢にも通じるものがあり、お話を伺っていて胸が熱くなる場面がたくさんありました。
新しく東京にできるKIENの新店舗もとっても楽しみです。オープンの際は、ぜひ伺いたいと思います!
取材協力店
季縁-KIEN- 京都ショールーム
住所:〒604-0063 京都府京都市中京区西大黒町332-5
TEL:075-366-5358
※完全アポイントメント制
季縁-KIEN-予約サイト 京都ショールームのご予約はこちらから。